「良い総務とは、どんな総務ですか?」

もしそう聞かれたら、私はこう答えると思います。

社員ファーストでありながら公平で、必要なときには経営者とも正面から向き合える総務です。

社員の要望を何でも聞くことが社員ファーストではありません。逆に、経営者の指示をそのまま社員へ伝えるだけが総務でもありません。

総務は、その間に立つ仕事です。

総務を続けると「危機管理能力」と「先を見る力」が身につく

総務で身についた能力を挙げるなら、私は「危機管理能力」と「先を見越す力」を挙げます。

会社によっては、総務が災害対策本部、BCP、情報セキュリティ、ウイルス対策などを担当します。問題が起きてから対応するだけではなく、「もし明日起きたらどうするか」「この仕組みのままで大丈夫か」と、起きていないことまで考えて備えます。

もうひとつが、先を見越す力です。

現場から「ここが使いにくい」「この仕事が面倒だ」という声が上がったとき、総務の仕事はその要望をそのまま処理することだけではありません。実際の改善の進め方は、総務の業務改善は何から始める?でも実例を紹介しています。

なぜ困っているのか。どうすれば問題を解消できるのか。改善した先に、どんな働き方を実現したいのか。そこまで具体的に想像する必要があります。

この力は総務だけで使うものではありません。将来、別の部署や管理職になっても、部門の弱点を見つけたり、今後の方針を考えたりするときに必要になる力です。

総務の先には「管理部長」というキャリアもある

総務の仕事というと、備品管理や庶務をイメージされることがあります。もちろん、それも大切な仕事です。

しかし経験を重ねていけば、総務経理部長や管理部長など、ホワイトカラー部門全体を束ねる立場も見えてきます。総務からどのようにキャリアを広げていくかは、総務のキャリアパスでも詳しくまとめています。

その段階で必要になるのは、専門知識だけではありません。判断力、決断力、そして経営能力です。

管理部門の責任者になると、採用選考で不採用を判断することもあります。退職に関わる判断をすることもあります。社員から相談を受けても、現在の制度では希望どおりに助けられないこともあります。

人に寄り添いたいと思っていても、最後は会社全体を考えて判断しなければならない場面があります。

だからこそ、管理部門の責任者には人に寄り添いながらも、感情だけで決めない強さが必要だと思います。

規則は社員を縛るためだけにあるものではない

ただし、冷静に判断することと、規則を機械的に当てはめることは違います。

私は、ルールや規則は人のためにあるものだと考えています。

規則には、良い・悪いを線引きする性質があります。一方で、社員が困ったときに「会社としてどう対応するか」を示すものでもあります。

だからこそ、実用性がなくなった規則は定期的に見直す必要があります。

慶弔休暇は何のためにあるのか

たとえば慶弔休暇です。

会社によっては「事由が発生した直近の平日○日間」という規則になっていることがあります。悲しい出来事があった直後に気持ちを落ち着かせるためには使えますが、実際の葬儀や告別式は数日後になることもあります。

「慶弔休暇は何のためにあるのか」まで考えると、単に規則の文言どおり運用するだけでよいのか、一度立ち止まって考えてもよいと思います。

社員ファーストは「何でも現場に合わせること」ではない

社員ファーストと聞くと、現場の希望をできるだけ通すことだと思われるかもしれません。私は少し違うと思っています。

以前、現場の負担を考えて、ある報告の期日を遅らせようという話が出たことがありました。

しかし、期日は適当に設定されているわけではありません。各グループから売上報告や日報が提出され、その後に集計し、全社レポートを作り、その数字をもとに経営判断をする。後工程があります。

現場が忙しいからと提出を遅らせれば、集計が遅れます。集計が遅れればレポートが遅れ、最終的には経営判断まで遅れます。

このような場合は、現場に寄り添うことよりも「やるべきことはやる」と伝えることも総務の役割だと思います。

一方で、柔軟に考えられる運用もある

すべてを厳格に運用すればよいわけでもありません。

たとえば勤怠では、顧客都合などで勤務開始時間に影響が出る場面があります。法令、就業規則、労働契約や会社の勤怠制度に反しない範囲で、実態に合った運用ができないか考える余地はあると思います。

大切なのは「規則だから」で思考を止めないことです。

この規則は何を守るためにあるのか。柔軟にすることで誰かが不利益を受けないか。後工程に影響しないか。法令上問題がないか。そこまで考えて初めて判断できます。

そして、柔軟にしてはいけない線もあります。私なら、労働法などの法令は明確な線引きです。会社の都合で法令を曲げることはできません。

管理職になるほど「一度立ち止まる力」が必要になる

主任や係長くらいまでは、「私はこうした方がいいと思います」「本来はこうあるべきです」と、現場の熱量を持って提案することにも価値があると思います。

しかし、管理監督者になれば、それだけでは足りません。

世の中の動向、他社の事例、社員からの要望、会社への影響。さまざまな角度から考える必要があります。

制度変更ひとつとっても、一部の社員には良い変更でも、年代や立場が違う社員にとっては現行制度の方が都合が良い場合があります。

だからこそ、一度立ち止まり、「本当に全体として良くなるのか」と考える力が必要になります。

社員に寄り添うことと、公平に判断することは同じではありません。

若いうちは「自分の考えをリーダーにぶつける」

もし私が20代に戻って総務をやり直すなら、まず就業規則や社内ルールをしっかり理解します。

ただ暗記するのではなく、なぜこのルールがあるのか、どんな場面で使うのかまで理解して、自分のものにします。

そのうえで、自分の考えをできるだけ多くの信頼できるリーダーにぶつけたいと思います。

私が考える信頼できるリーダーとは、単に役職が高い人ではありません。

今の自分では思いつかなかった、一歩先の考えや景色を見せてくれる人です。

自分では正しいと思った案でも、別の立場から見れば問題があるかもしれません。その経験を何度も繰り返すことで、物事を見る角度が増えていきます。

良い総務は、社員と経営のどちらにも偏らない

私は、社員ファーストでありたいと思っています。

でも、社員の言うことを何でも受け入れる総務が良い総務だとは思いません。経営者の言うことをそのまま通すだけの総務でもありません。

社員の声を聞く。会社全体を見る。規則の目的を考える。後工程を見る。法令を守る。必要なら制度を変える。

そして、ときには経営者にも「それは違うのではないでしょうか」と正面から意見を伝える。

社員ファーストでありながら公平で、経営者とも正面から向き合える。

私は、そんな総務が「良い総務」なのではないかと思っています。

総務の仕事内容・向いている人・キャリアを全体から確認したい方は、総務の仕事を知る完全ガイドもあわせてご覧ください。